第6回 中野北溟記念北の書みらい賞発表

 中野北溟記念北の書みらい賞の第6回目の選考会が6月10日に札幌市内で行われ、最高賞の大賞には土井伸盈さん(札幌市)の作品「死中生」、奨励賞には栗塚沙笑さん(東京都)、長岡真貴子さん(札幌市)、中村心咲さん(札幌市)の3人の作品が選ばれた。

 同賞は、日本を代表する書家中野北溟氏(留萌管内羽幌町焼尻島出身、札幌市在住)の功績を記念し、未来の北海道書道界を担う若手書道家の育成・支援事業として特定非営利活動法人北の書みらい基金が創設し、2021年から毎年春に選考会を行ってきた。

 大賞受賞者には50万円、奨励賞受賞者3人には各20万円の奨励金が贈られる。贈呈式は8月1日に札幌市内で予定している。

 大賞、奨励賞計4点は、前回受賞者4人の作品とともに7月29日から8月2日まで、DO-BOX EAST(札幌市中央区大通東4丁目1番地 北海道新聞社ビル1階)で開催する受賞者展で展示する。時間は午前10時から午後6時(最終日は午後5時終了)まで。入場無料。

大賞

「死中生」 土井伸盈
179cm×240cm

奨励賞

「和気」 栗塚沙笑
140cm×70cm

「雲間の月」 長岡真貴子
225cm×52.5cm

「雷神」 中村心咲
70cm×136cm

 本賞は北海道在住の50歳未満(2026年4月1日現在)の書家が2025年度に発表した作品を対象とし、選考は学識経験者、美術関係者らで構成された選考委員会(選考委員長 札幌芸術の森美術館館長・佐藤幸宏氏)が行った。各選考委員は今年4月までに1人5点以内の候補作品を推薦した。今回の選考会では候補作品18人19点を展示し、選考を行った。

 

選考会出品者(50音順・敬称略、在住地は2026年6月現在)

池田憲亮(小樽市)、石神美咲(名寄市)、石上結愛(滝川市)、遠刕七海(東京都)、大澤小綾(旭川市)、大玉日華里(帯広市)、押上万希子(苫小牧市)、川原里帆(松前町)、栗塚沙笑(東京都)、小森蘭亭(札幌市)、佐々木豪紀(札幌市)、杉原祥太(斜里町)、立川水葉(小樽市)、土井伸盈(札幌市)、長岡真貴子(札幌市)、中村心咲(札幌市)、半澤姚虹(旭川市)、横山晃秀(札幌市)

■選考委員長

佐藤幸宏氏(札幌芸術の森美術館館長)

■選考委員(50音順・カッコ内は2026年4月現在の肩書き)

阿部典英氏(美術家・北海道文化団体協議会名誉会長)
笠嶋忠幸氏(出光美術館上席学芸員)
古家昌伸氏(編集者、アートライター)
齊藤千鶴子氏(北海道立釧路芸術館学芸主幹)

入賞者紹介

大賞 土井伸盈(どい しんえい)

受賞の言葉 1文字目「死」は亡くなった人の骨を拝する人の形だそうです。古人は、人が人を懐(おも)うことをその文字に託したのだと思います。「思いの丈を文字に託して伝えたい。」この素朴な希いにこそ書表現の根幹があります。私も歴史を歩む一員として、古の創造性に学びながら、今、ここに生きるほかでもない自分のありったけを表現したいと念願しています。この度は拙作を取り上げていただきありがとうございました。

プロフィール
1981年生まれ、浦臼町出身。2016年創玄展準大賞、22年日展入選、24年北海道書道展大賞、25年毎日書道展会員賞。個展2回【21年「挑戦。―ここから」(アートホール東洲館・深川市)、24年「交響詩岩見沢を書く」(岩見沢市立図書館)】。現在、毎日書道展審査会員、創玄展二科審査会員、北海道書道展会員、書道研究書圏同人会員、北海道教育大学岩見沢校准教授(書分野)。札幌市在住。

奨励賞 栗塚沙笑(くりつか さえ)

受賞の言葉 この度は、奨励賞という名誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。高校に入って初めて書道に触れた私が、このような評価をいただけるとは思ってもおらず、とても驚いています。「和気」は、これまでで最も長く向き合った作品であり、その分、思い入れもひときわ深いものとなりました。このような賞をいただけたことを大変嬉しく思うとともに、書道初心者だった私に一から丁寧にご指導くださった先生方、そして共に部活動に励んできた仲間たちに心より感謝申し上げます。書道を通して得た経験を大切にしながら、これからも自分らしい表現を追求していきたいと思います。

プロフィール
2007年生まれ、江別市出身。23年全道学校書道展特選、24年北海道学生書道展特選。札幌北高等学校書道部。現在、東京学芸大学教育学部教育支援課程在学。

奨励賞 長岡真貴子(ながおか まきこ)

受賞の言葉 この度は奨励賞という名誉ある賞を頂戴し大変嬉しく思っております。誠にありがとうございました。現在は市立札幌新川高校で国語科教員として勤務しております。夢の実現に向かい奮闘する生徒の姿に負けぬよう、自分を鼓舞する毎日です。「手(筆跡・文字)などもいとをかしうもあるかな…(『枕草子』)」の一節を授業で扱う度に、文学と仮名書の魅力を伝えられることに幸せを感じ、また新時代の担い手たちへこの文化を伝え続けていきたいと切に願っております。今後もこの賞に恥じぬように邁進してまいります。この度は誠にありがとうございました。

プロフィール
1980年生まれ、札幌市出身。2021年創玄展準大賞、22年北海道書道展準大賞、毎日書道展毎日賞。現在北海道書道展会員、創玄展二科審査会員、毎日書道展会員、北海道書道連盟理事、さわらび会常任理事。市立札幌新川高等学校国語科教諭。札幌市在住。

奨励賞 中村心咲(なかむら みさき)

受賞の言葉 この度は奨励賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。
 札幌光星高等学校書道部で活動する中で、私はたくさんの人と出会い、さまざまな書に触れてきました。今回このような賞をいただくことができたのも、いつも熱心にご指導くださる宮村桃華先生をはじめ、ともに活動する仲間やいつも支えてくれる家族など、多くの方々のおかげです。
 これからも出会いを大切にし、感謝の気持ちを忘れず、多くの方の心に響く書を目指して努力してまいります。本当にありがとうございました。

プロフィール
2009年生まれ、札幌市出身。25年北海道学生書道展推薦、全道学校書道展推薦、25、26年北海道書道展秀作、26年創玄展漢字部二科賞。札幌光星高等学校書道部。札幌市在住。

審査講評

 この度の選考の特徴としては、これまで札幌以外の地域からの受賞者が多かったのに対し、全員が札幌圏であったことが指摘できる。加えて十代の受賞者が2名いたことも初であり(昨年、初めて1名受賞)、本賞の趣旨に鑑みれば、特筆すべきことと言えよう。さらに、あえて付記すれば、かな書の作品が選ばれたことも初のことであった。
 こうした初物続きの選考となったが、むろん決して意図的に行われたわけではない。本賞の存在の周知が進んだことや、団体展の場以外に広い範囲で選考対象に目を向けるという本賞の特徴が、次第に実を結び始めている証左ではないだろうか。今後も本賞が北海道の書道界に貢献できることを祈りたい。

選考委員長 佐藤幸宏氏(札幌芸術の森美術館館長)

 第6回となった「北の書みらい賞」の年代別候補者は、審査の投票結果が出るまで19名の年齢は分かりません。
 大賞受賞の土井さんは44歳です。作品「死中生」は、人物、動物がどこかに向かって走り出しているように見えました。言葉の意味を調べますと、「絶望的な状況や死を覚悟するような極限状態の中にも、必ず活路や生き残る道が残されている」と記されていました。
 私は、世界の中で現在起きている戦争を思い浮かべ、犠牲となっている一般市民の方々の気持ちに思いを馳せました。
 奨励賞受賞の10代2名は17と18歳でしたが、作品から溢れ出る若さの気迫に好感を持ちました。また、女性3名の受賞、かな部門の受賞も初めてであり、これから新しいかな作品への展望を期待します。

選考委員 阿部典英氏(美術家・北海道文化団体協議会名誉会長)

 今回の候補作は、いずれも運筆の闊達さに優れ、気迫のこもった力作揃いでしたが、選考は1回目でトップ4賞分を決するほど明解であった点、特筆に値します。選考会の協議の場では、未来の書作像について、改めてその本質をただす意見交換がなされました。従来の公募展等で若手に期待される観点は、まず技術的な練度があり、加えて構成上の大胆さ、筆力の強さや墨線と余白との関係性などが問われます。しかし、「書のみらい」像を見据えた本選考では、これらのバランス志向に対する感性や、挑戦する意識の有無が感じ取れるものを、健康な作風と観ています。その結果、10代のお二方の受賞は、今回の大きな成果であると考えます。

選考委員 笠嶋忠幸氏(出光美術館上席学芸員)

 個性や自由ではみ出していく―。これはダンス&ボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」の自己紹介フレーズです。はみ出すことを尊ぶのは現代芸術の常ですが、それは書の世界で手本に忠実に書くこととは両立しますか? この問いは、どんなに頑張って取り組んでいらしても、臨書やそれに準ずる作品は推しにくいという、みらい賞選考のジレンマそのものです。
 大賞受賞作の《死中生》は、これまでお見かけした土井さんの作風とは少し趣が違うと感じました。そんな「自分からのはみ出し」もまたよし、と思います。書壇の諸先生がたも、勢い余ってのはみ出しを、おおらかに受けて止めてくださいますよう。

選考委員 古家昌伸氏(編集者・アートライター)

 中野北溟氏の師・金子鷗亭氏、鷗亭氏の師・比田井天来氏は、古典研究を重視し、書の創作の源泉を“古(いにしえ)”に見出していました。
 このたび大賞受賞の《死中生》、奨励賞受賞の《和気》《雷神》は古字を素材とした漢字作品、《雲間の月》は古筆に学んだかな作品。いずれも“古”の書から、書家自身の感性にふれるテーマを見出し、対峙し、格闘した成果が表れていました。
 制作者が何を見つめ、その時々の“今”をどのように表現したか…古今東西の芸術に共通することですが、鑑賞者はそこに注目し、鑑賞の醍醐味を感じています。最新の“今”を追究し続け、筆を揮う若手書家の皆さんに拍手を送ります。

選考委員 齊藤千鶴子氏( 北海道立釧路芸術館学芸主幹)

左から北の書みらい基金村田正敏理事長、齊藤氏、佐藤氏、阿部氏、古家氏、笠嶋氏。
2026年6月10日、北海道新聞社DO-BOX EAST


中野北溟氏

 日本を代表する書家。毎日書道会最高顧問、創玄書道会最高顧問、日展会員、北海道書道連盟顧問、天彗社代表。札幌市在住。

 1923年7月31日、北海道苫前郡焼尻村(現在の羽幌町)生まれ。北海道第三師範学校(現在の北海道教育大学旭川校卒業。豊富、稚内、旭川、札幌で教員を務めながら毎日書道展、北海道書道展などに出品し、審査会員として活躍する。

 79年札幌市立札幌中学校校長を早期退職し、書に専念、海外でも作品を発表する。90年北海道新聞文化賞受賞、99年毎日芸術賞を岡井隆氏、河野多恵子氏、蜷川幸雄氏、高倉健氏らと受賞。2005年東京日本橋三越、09年北海道立近代美術館で個展開催。

 長年、日展、毎日書道展、創玄展など、全国トップクラスの書展で作品を発表するとともに、北海道書道展、北海道書道連盟では理事長など役員を歴任し、北海道書道界の発展に寄与してきた。

 中野氏は師の金子鷗亭氏からの上京の誘いを断わり、札幌で書活動を続けてきた。太平洋戦争中の一時期(久留米予備士官学校)を除き、北海道を離れることがなかった。スポーツの才能にも恵まれ、テニス選手として国体に出場している。

 25年4月18日、札幌市教育文化会館に「中野北溟記念室」が開設された。「書の北溟記念室」(羽幌町中央公民館)に続き2か所目の常設展示施設となった。